くすりの薬(役)立つ話
薬剤師 安井真祐 様
皆様、はじめまして。安井真祐 です。
名古屋市内の病院で薬剤師として働いています。今日は、くすりの服用に関することについて話します。
「くすりを飲んでも病気が治りません」と話すのは、
座薬と書いた解熱剤を座って口から飲んだ人がいました。
このような間違いをする人がいたので、「座薬」は「坐剤」という言葉で言い換えるようになりました。
「くすりは正しい使い方をしないと効き目が現れません」そう言って、
鼻づまりに効くカプセルを鼻に入れて出ずに困った人がいました。すぐに止めたい気持ちはわかりますが・・・。
「用法通りに服用してください」と伝えたところ、
食事中にくすりを飲んでいた人がいました。
理由を尋ねると、薬の袋を見せて、ここに食間服用と書いてあるでしょと・・・。
笑いは人の薬とは言うものの、くすりを適正に使用することに関して、患者さんと医療者の常識がズレていると感じることがあります。
クスリを適正に使うためには、まず正しい理解と、ライフスタイルに合った薬選びが必要です。今や「かかりつけ薬局」の時代、患者さんが薬局(薬剤師)を選ぶ時代です。ぜひ納得いくまで説明をうけて、頼りになる薬剤師を見つけるのはどうでしょう。
それが、薬の適正使用の第一歩といえるかもしれません。
しかし、くすりをいくら正しく飲んでも病気は治りません。なぜなら、治すのは患者さん自身だからです。元々、人間の体には病気や怪我を治す力(自然治癒力)が備わっています。体の機能のバランスや秩序を正常に保つ力(恒常性維持)、病原菌などの異物の侵入から体を守る力(自己防衛=生態防衛)、傷ついたり古くなった細胞を修復したり新しいものに交換する力(自己再生=修復・再生)、こういった働きは、本来、人間の体に自然に備わっているものです。この「自然治癒力」を手助けするのが「くすり」の役割です。
くすりは、病気の原因となる菌(病原菌)を殺したり、痛みや熱といった病気の症状を抑えたりして、人間の持っている自然治癒力が十分に働き健康な状態に戻るのを手助けするにすぎません。
くすりが、その目的とする効果を発揮するためには、それに含まれる成分が、効いてほしい場所(患部、標的臓器)まで届く必要があります。口から飲んだくすりは、食道→胃→十二指腸→小腸へと送られる間に溶けて、出てくる成分が「吸収」され、門脈という血管(静脈)を通って肝臓に入り、体内を循環する血液の中に送られます。血液に入った成分は、血液の循環とともに体のいろいろな場所に運ばれ(分布)、その成分を必要とする場所で効果を発揮して、くすりとしての役割を果たします。
したがって、くすりが最もよく働くのは、血液の中のくすりの成分の量(血中濃度)が多くも少なくもない、丁度良い範囲の時です。服用したくすりが、決められた量や回数より多いと、血中濃度が高くなり副作用を起こすことがあったり、少ないと、低くなって効き目が現れないことがあります。くすりの効果を正しく引き出し、狙い通りの役割を果たしてもらうためには、血中濃度を一定の範囲内に保つことが大切です。
また、くすりには「飲み合わせ」といって、食べ物や飲み物によって、効き目が変わることがあります。効きが悪くなる例として、牛乳やヨーグルトとある種の抗菌剤、納豆とワルファリン(血栓ができるのを抑える薬)などがあります。逆に効き過ぎになるのは、アルコールと睡眠薬、グレープフルーツとカルシウム拮抗薬(高血圧等の薬)などがあります。
その他に、くすりに特殊な設計がされているものもあります。薬が飲み辛いからと言って、砕いたり、カプセルから出して飲むと、くすりの効き目がなくなったり、ものすごい味がするようになるものがあります。
このようなことから、くすりは決められた服用方法と量を守り、コップ1杯の水またはぬるま湯で服用することが大切です。そして、くすりを服用した後は、自分の体の状態をよく観察しましょう。いつもと違う何か変わったことがないか確認することが副作用を見つけるのに大事です。副作用の多くを避けることができます。
「もしかして副作用かな」とか、「くすりについてわからないことがあるので誰かに相談したいな」って思ったとき、気軽に相談できる人がいると便利ですよね。そんな時に頼りになるのが、「かかりつけ薬局(薬剤師)」という考えです。
合わせて、活用してほしいのが「おくすり手帳」です。もしものとき、自分のくすりがわかりますか?
阪神淡路大震災のとき、くすりがなくなって、飲んでいたくすりがわからないということがあり、薬剤師会作成したものです。東日本大震災の時は、このおくすり手帳で投薬が行われました。普段からおくすり手帳を保険証と一緒に携帯し、複数の科(病院)にかかるときは、それぞれの医師、薬剤師におくすり手帳を見せてください。重複しているくすりや、飲み合わせがチェックできます。これらを、健康管理のツールとしてどうでしょう。
人生100年時代、健康なしには務まりません。それには、
1.適度な運動
2.栄養バランス
3.十分な睡眠
加えて、心の健康
が必要だと言われています。でも、いくら健康に注意していても、病気にかかることはあります。そんなときにお世話になるのが「くすり」です。
「くすりを知って、怖がらずに、正しく使う」ことが大切です。